vol.48『セントラルアパート567、568号室 クリスタジオ』熊谷 正

1974年夏のある日。
セントラルアパート1階にある喫茶店レオンにて、写真学校の同級生数人と待ち合わせをしていた。
上の階には著名なクリエイターや写真家の事務所があるので、このレオンには、憧れの人たちがたむろしている。同じ空間にいることにドキドキ、ワクワクしながら待つ。

同級生は、操上和美先生のアシスタントをしている坂野 豊君。
夕方遅く、先生が帰った後のスタジオに遊びに来ないかと誘われていたのである。

央の吹き抜け広場を見下ろす5階にあるクリスタジオの扉を開けると、カメラマンを目指す自分にとって、なにもかも新鮮でワクワクする撮影機材のストロボセットやスタンドや三脚が使いやすいように整頓されている。暗室には、引き伸ばし機フォコマートが数台並び、使いやすいように整備された現像システムに驚嘆する。

クリスタジオは、二つの部屋の真ん中に穴を開けてハッチ型のドアで仕切られ、スタジオと暗室から、事務スペースの部屋を行ったり来たりできるようになっている。事務スペースには、まるでキャバレーのような円形ソファが配置されていて、そこで、ジャズやロックのレコードをスピーカーのボリュームを上げて聴きながら、ビールを飲みながら、写真集を眺めながら、写真談義が盛り上がった。その日から、幾度もスタジオにお邪魔して、写真、音楽などの刺激をもらうことになった。

時の僕は、オイルショックの影響で就職がままならない時期で、原宿のヤシカ本社の前にあったスナックRONRONでアルバイトをしながら、写真を仕事にしていくことができるのか?不安な時期だったので、この恵まれた環境の中でアシスタントをしている坂野君が羨ましかった。彼は、操上先生の親戚という関係であったが、最終的に8年近くアシスタントを続け、その後、見事CM映像の世界で名を挙げていった。

2015年春、彼の個展のパーティーで再会した。20年ぶり位になるだろうか。写真学生時代からのセンスの良さが伺える素晴らしい写真展だった。
その時に、写真学校時代の旧友が住む金沢への旅を、同級生の仲間と行こうと約束していたが……2019年1月31日、突然届いた訃報に驚嘆した(坂野 豊。平成31年1月29日 肺炎により急逝。享年67歳)。

あの20代の坂野 豊君とのことが、走馬灯のように脳裏に現れては過ぎ去っていく。


※ TOPの写真は、酒を交わす坂野君と僕(口ひげ)です。

筆者 プロフィール

熊谷 正(くまがいただし)(写真家)

1951年生まれ 長野県出身
東京綜合写真専門学校卒業
カメラマンアシスタントを経てスタジオベアーズ設立
広告、雑誌分野でイメージ写真、商品写真、人物写真を中心に撮影従事。
民俗芸能、舞台芸能のルポルタージュフォトと、ガラス器をテーマに「影透光」の撮影と、ノスタルジックな風景をテーマに「ふるさと回帰」の撮影をライフワークにしている。

主な写真展:
「夢を追う子どもたち」ニコンサロン銀座
「ジャパネスク」アトリエヴィスコンティ(フランス・パリ)
「ジャワ夢幻街道」コニカフォトギャラリー(東京、大阪)
「影透光・ガラスの幻影」ギャラリーバー26日の月
「東南アジア影絵芝居探訪」日本アセアンセンター 
「ワヤンクリエーション」EIZOガレリア銀座
「祭復活を願って走れ!騎馬武者〜相馬野馬追〜」
 朝日新聞東京本社コンコースギャラリー/福島市民ギャラリー

●グループ展参加多数
公益社団法人 日本写真家協会会員 インドネシア美術研究会会員 
フォトボランティアジャパンメンバー

●ホームページ www.stbears.com/kuma e-mail kuma@stbears.com

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