vol.40 『ペニーレイン』ミック・イタヤ

間の感じかたは思うようにならない。楽しい時は駆け足で、早く過ぎて欲しい時はゆっくりといつまでも止まろうとして、予期せぬほんの一瞬に永遠が宿る。

19、20才の年頃は、若さを発散する自分が美しい光の中に居るのを知らず、迷い込んだと思い手探りで歩む闇の中で、瞳を閉じたまま何も見えないと嘆き、暗く重い気持ちを抱え切れずに持て余し、閉じたままの瞳では、初めから身に付けていることにも気付かずに宝探しをしているような、回りくどく、愛しい時間の流れの中にいた。

頭をパーマ屋で流行りのコークスクリューにしようと、雑誌からスクラップした写真家、鋤田正義さんの撮ったマーク・ボランのポートレイトを持って行くが、アパートを借りた東京郊外の町のパーマ屋のおばさんは、ロンドンの流行りなどは知らないし関係がない。写真を見て「ふーん」と小さく唸りながら時間をかけて、ただの奥様風なふんわりとしたパーマスタイルになった。グラムロックの貴公子からは程遠く、暗い気持ちで商店街を足早にかすめるように歩く。帰って頭を洗い、髪の毛をお望みのスタイルに飼い馴らせるかどうか。東京近県のいなか町で産まれ育って東京に出て来たが、しかし、一体、東京の何処に行けば新しい仲間に出会えるのか分からなかった。

凡パンチやan・anなど、雑誌で仕入れた情報を頼りに、セントラルアパート界隈をうろつき、憧れのWORK SHOP MU!のグラフィックデザインを夢見て美大に入り、自分と同じ匂いのする仲間がいるかと嗅ぎ廻るのだが、世田谷の上野毛だと思ったキャンパスは、中央線の八王子からバスに乗った彼方で、洒落た街の匂いからはほど遠く、まだ見ぬ仲間を羊や山羊の臭いのする山の上で探すことになった。ヒッチハイクしながら学校に通うことになるなんて、ヒッピーな気分でそれもまた良しとした。

1年生の夏、福生のハウスに引っ越して、今思えば不思議な海外留学のような毎日を送っていたようだ。福生の生活と時間の密度は、原宿や青山辺りのそれとは対極的で同次元的だ。興味のあるデザインやアート、ファッションやミュージックを求めて両極を往き来する生活が始まる。

2時間近くかけて遊びに出かける原宿で必ず立ち寄ったのがペニーレインで、美大に入り知り合ったガールフレンドの友達Kちゃんがアルバイトをしていたこともあり、待ち合わせや時間潰しにたびたび訪れた。ペニーレインの経営者は後のFOR LIFE(フォーライフ・レコード株式会社)社長、後藤由多加さんで、いつもビートルズの曲が流れ、フォークやニューミュージックのミュージシャンが多く訪れた。
Kはペニーレインに車で通ってアルバイトをするような、裕福でコケティッシュな可愛い子で、向かいの店ではKのボーイフレンドMくんが働いていたこともあり、ペニーレインでアルバイトを始めたようだ。
僕はペニーレインではスパゲッティ、向かいの店ではハンバーグステーキを食べた。しかし、大概はペニーレインに行き時間をかけてアールグレイを飲みながら、時々見かけるガロやかぐや姫、アリスのメンバー、関係者に出会うのが楽しみでもあった。Kがペニーレインによく来るシンガーソングライターのSと付き合うようになって、人気者のSと人目を忍んだ会瀬のため、福生のガールフレンドのハウスにKが移り住むようになり、Sを車に乗せてやって来ると、一緒に飲んだり食べたり笑ったり眠ったり、愛や恋や人間関係のデリカシーや、全てを理解したような、素知らぬ振りで飾り立てた鈍感を勉強することになった。
ペニーレインに通った期間は短い。Kのパッと輝くような恋がいつしか終わったように、22才になる前には興味が他の場所に移って行った。

る夜、ペニーレインを出て表参道を渡り、ピアザビルの前を通り過ぎようとすると、「おい」と小さく呼ぶ声がする。照明を落としたビクター犬の像の脇に座った谷村新司さんが右手に何か持って手招きする。近付くと大福を差し出して「食べる?」と言った。並んで座って大福を頬張った。


当時のペニーレイン
左:出典 http://bashamichi.way-nifty.com/
右:anan  s48/12/05 88号より


多摩美の仲間たちと。(筆者は上段右から四番目)

■ オバンドス/OBANDOS
自作の楽器を奏でるあらゆる意味で奇跡のバンド。
薙野、高橋とイタヤは多摩美の同級生。
メンバーは、
・安齋肇/ソラミミスト
・朝倉世界一/漫画家
・白根ゆたんぽ/イラストレーター
・しりあがり寿/漫画家
・高橋キンタロー/イラストレーター
・薙野たかひろ/イラストレーター
・なんきん/漫画家
・パラダイス山元/音楽家
・ミック・イタヤ の9人。


70年代の作品
左 “KISS” 1975
右 “The Cave In The Earth Part 1 Hero And Heroin” 1975


セルフポートレート
福生ハウス内壁の前で。1974年。

筆者 プロフィール

ミック・イタヤ MIC*ITAYA
(ビジュアルアーティスト)
Photograph:Takeo Ogiso

多摩美術大学卒業。
流麗な線と明るい色彩で自然や神話の世界を表現、雑誌、広告、音楽、ファッション、ステージ、空間デザイン、プロダクトデザイン、出版等各分野で活躍し個展も多数行っている。UNIQLOユニクロ創立時のロゴマーク、東京スカイツリー「ソラマチ」の壁画やオブジェ、鏡の作品「MIRRORS」、和の照明器具「すずも提燈」はグッドデザイン賞を受賞。BEAMSのブランド「BEAMS LIGHTS with MIC*ITAYA」のストーリーとデザインなどがある。’80年代にデザイン出版したカセットマガジン「TRA」は、MOMAニューヨーク近代美術館に永久保存されている。
オフィシャルサイト http://www.micitaya.com/


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